BEAUTIFUL DREAMER

 晩秋と言うにはまだ早い、濃い空色が俺を見下ろしていた。
 今まさに出発しようとしていた電車に飛び乗る。
 閉じたドアに挟まれそうになったギターケースを、慌てて引いた。

 果てなく続くように見えるこの線路の終着点より先に、俺は行こうとしている。
 もちろん、一人きりで。

 この指が、腕が、これから描こうとしている未来の地図。
 網棚に上げたボストンバッグには、今はまだ過去が詰まっている。
 しかし、自分の手で変えて行かなくては。
 世界は俺のためになど、回りはしない。

 心地よい揺れに身を任せたまま、気付けば遠くなる意識。
 浅い眠りの中で、彼女がこちらを見つめていた。
 何もなかったかのように笑っている。
 いつまでも隣にいることを、暗黙の了解のように。
 捨てられなかった。
 夢へと焦がす想いも、甘く優しい微笑みも。


 …俺達はなぜお互いを
   守りたかっただけなのに傷つけ合うの?…


 ウォークマンから聞こえてきたフレーズが、やけに鮮明で。
 背中を押されるように目が覚めた。
 普段はそこまで好きじゃなかった曲なのは確かだ。

 怖かった、のかもしれない。
 現実は、すぐそこまで近づいていたから。


 …時の速さに流されぬよう 強く握り過ぎて壊したものは
   オマエだったかな…
 …どうあがいても汚れてしまう こんな時代に咲いた花達は
   あの日の2人にどこか似て…


 無情にも選択を迫られる瞬間はやってくる。
 守りたかったなら、電車を諦めてホームに立っていれば良かったんだ。
 今頃彼女が心に負っている傷と、俺の中にわだかまる痛みは、同じではない。
 でも、記憶の中で重ねた想いは、決して変わらない。

 綺麗なままの彼女が、瞳を閉じた闇の中で少しずつ、薄れていく。
 お互いに素直でいられた存在。
 愛し合うというのは、きっとこういうことだったんだろう。

 離れて初めて気付くことは多いけれど、人は前に進まなければいけない。
 俺は今、この歌と共に旅立てることを誇りに思うことにした。

 いつか、目覚めても風の感じられない朝が訪れたら。
 憤りの中に、自分を見失いそうになったら。
 そして俺と同じように、たくさんの宝物を抱えて悩んでいる誰かに出会ったら。
 きっと、静かにギターを鳴らしながら、口ずさむんだろう。


   …すべては美しくあるために…


 そう、自信を持って、後悔しないように。
 ありのままの涙と笑顔を見せてくれた、彼女のように。
 時に振り返っても、幸せだけを思い返せるように。

 線路は何もかもを越えて、限りなく太陽に近い試練の街へと俺を運ぶ。

 青空は、いつもと変わらぬ夕暮れに飲み込まれていく。


 確かに、今。

この曲って本当に脈絡ないですね。
改めて歌詞を見返し、TAKUROさんのセンスに脱帽。
こういう言葉の連なりって、ずっと何も感じなかったのに、
ふと同じ境遇に出会って「感じた夜」が訪れるんですよね。
でもやっぱり脈絡ないから難しい。