帰途
空の青は濃く、俺の影が白く映っている。 どこまでも続いていたはずの道が急に見えなくなった。 ……いや、元からありはしなかったんだ。 道だと信じて歩いていただけで。
振り返れば、そこには街灯がひとつ。 大きな黒いバッグを手にした俺も、独りだった。 もちろん今は真昼だから、その街灯が役目を果たすことはなく。
夢を描いていた地図に、想い出が見え隠れしている。 辺りは紫の薄闇に変わっていた。
暖かい家庭。 俺を待っていてくれる笑顔。 スタート地点であり、ゴール地点でもある。
そして皮肉なことに、迷路の行き止まりにも、それは用意されていた。
見覚えのある幸せな世界が、目の前に迫ってくるのがわかった。 あいつの顔だ。 セピア色の街並はみるみる色を増していく。 ……夜だってのに。
あんなに晴れていた空に月はない。 街灯の淡い光だけを頼りに、本当の居場所を探す。 そう、俺だけがまだそれを見つけていない。
遠い記憶の鍵がゆるむ。 冷たい雨が胸の奥に浸みていく。 それがあいつの涙だと気付くのに、時間は要らなかった。
あの日と同じ泣き笑いの顔に吐き捨てる。 最初から、わかっていたんだ。 俺も、あいつも。
「俺の言葉じゃ、誰も救えねぇ」
夢は、得てして無意味。
そして、意味のないことほど人は夢中になれる。
ただ、意味のない自分を、誰が大切にできるだろうか?
「俺」は誰でもなくて、立ち向かう世界そのもの、かも。 |